ビールにはたくさんの種類があります。
これらはどの様に分類することができるのでしょうか。
醸造工程におけるビールの分類には、使用する酵母の性質発酵後の熱処理の有無、および清澄添加物の違いなどに基づきます。
今回はこれらの違いにより、どのような種類のビールを造り出しているのかをご紹介します。
1.発酵終了後に酵母が液面に浮かび上がる 上面発酵ビール
糖化を終えた麦芽は水や副材料(米、コーン、スターチなど)を加えられた後、濾過されます。
そして煮沸冷却を経て、ホップと酵母が添加され、発酵がスタートします。
酵母は液体に含まれている糖分を、アルコールと炭酸ガスに分解します。
役目を終えた酵母の死骸が液面に浮かび上がってくるタイプは上面発酵ビールと呼ばれています。
代表的なもので、イギリスのエールが有名です。
淡色でホップのスパイシーさを利かせたペールエール、中濃色で麦芽の香りを出したマイルドエール、色の濃いブラウンエール、ホップの苦味を打ち出したビターエールなどがそうです。
アルコールは4~5度が一般的です。
その他、大麦だけでなく小麦も使用したドイツのバイツェン、修道院ビールとして有名なベルギーのトラピストも上面発酵ビールです。
アルコール度数は概ね、5~5.5度程度です。
2.酵母の死骸が沈降する 下面発酵ビール
下面発酵ビールは、アルコール発酵の役目を終えた酵母の死骸が澱となって沈殿するタイプのビールを指します。
芳醇でコクのあるドイツアイベック発祥、バイエルン地方で発展を遂げたボックや、爽快な風味と淡い色が特徴の、チェコプルゼニュ地方のピルスナーが世界的に有名です。
日本の多くの淡色ビールもこのタイプに分類されます。
ピルスナーのアルコール分は4~5度程度ですが、ボックは6~6.5度と比較的高めなのも特徴です。
さらに高めたタイプをドッペルボックと呼び、7.5~13度もあります。
3.酵母不使用による自然発酵ビール
1と2のビール造りでは、酵母(学名.サッカロミセスセレヴィシエ)は人工的に選抜した培養酵母の使用が前提です。
そうではなく、ホップや大麦麦芽に付着している野生酵母のみでアルコール発酵を行うタイプのビールもあります。
代表的なものに、ベルギーのブリュッセル地方で造られているランビックがあります。
いわゆるベルギービールとは、多くの場合これに該当します。
大麦麦芽と小麦、古いホップを使用し、1~2年掛けて自然発酵させるのが特徴です。
空気中に浮遊している乳酸菌によるマロラクティック発酵による、柔らかな風味や酸味、微生物の働きによる野性的生き生きとした特有の香りを有します。
できあがったばかりの新しいランビックと熟成を経た古いランビックを混和し、落ち着かせるため、さらに1年ほど熟成させるのが一般的です。
酵母を死滅させないので、瓶内二次発酵が生じやすいのも特徴です。
シャンパンのようにボトルごとの個体差が生じることもありますが、熟成を経れるにつれてコクが出ていきます。
チェリーやラズベリーを加えたフルーツビールが多いのも特徴です。
4.熱処理の有無によるビールの種類の違い
発酵後に残存する酵母を完全に死滅させるため、熱処理を行うことをパストリゼーション(殺菌処理)と言います。
いわゆる生ビールやドラフトビールとは、この加熱殺菌を行わず、濾過によって酵母を除去したものに該当します。
その場合は「非熱処理」、または熱処理をしていない旨を表記されます。
また、貯蔵工程で熟成させたビールをラガー(スペインの石造りの発酵槽、ラガールに由来します)と呼びますが、こちらは熱処理の有無にかかわりません。
風味はやはりある程度損なわれますが、熱処理を行うことで、瓶詰後の瓶内二次発酵を未然に防ぐことができます。
結果として品質が安定します。
5.添加物の有無による違い
酵母は低温下(5~15℃)では不活性となります。
そのため、イギリスのような寒冷地では麦芽の糖化による糖分だけでは十分にアルコール発酵が行われないこともあります。
これを防ぐため、発酵促進する目的で砂糖の添加が許可されています。
アイルランド、ダブリンのギネスを代表とする濃厚でホップの苦みが効いたスタウトがその代表です。
キャラメルのような香ばしい風味とコクのあるボディが特徴で、アルコール分も4~8度まで幅広いのも特徴です。
上記の場合、砂糖の添加は甘味を加えるためでなく、あくまでアルコール度数を高める目的で行われます。
それにより飲み応え、つまりボディがしっかりとしてきます。
一方で、スイートスタウトと呼ばれる甘みを前面に打ち出したタイプも造られています。
6.醸造方法を知ることで、味わいが奥深くなってゆく
いかがでしたでしょうか。
一口にビールと言っても、様々な分類方法による品質部門が存在します。
ここで述べた醸造工程の違いによるものだけでなく、原材料や色、さらには産地や造り手によっても差別化されています。
こうした分類を参考にしながら、それぞれの味わいの峻別が可能になれば、ビールを選ぶのも飲むのも、より一層楽しくなります。
文字情報と味覚をすり合わせながら、じっくり吟味し、好みの味を見つけ出すのも中々楽しいものです。