ビールの瓶や缶のラベルをよく見ると、生ビールと表記されていたりラガービールと表記されていたりします。
そもそも生ビールとラガービールの違いをご存知でしょうか。
生ビールとラガービールはどのようなビールの事を言うのかご紹介します。
1.生ビールは処理方法により定義されている
まずビールの製造工程を見てみることにします。
ビールは麦芽、ホップ、水の主原料の他に、副原料としてお米やとうもろこし、でんぷん、糖類などを加えて造られています。
細かく砕いた麦芽とお米などの副原料を温水と混ぜると、麦芽の酵素の働きによりでんぷん質が糖分へと変化します。
この糖化液を濾過したのち、ホップを加え煮沸して出来たものが熱麦汁であり、これを5℃程度まで冷まし、酵母を加え発酵タンクに入れます。
約1週間程度の間に、酵母の働きによって麦汁中の糖分の大部分がアルコールと炭酸ガスへと分解され、さらに貯蔵タンクに移された後、0℃程度の低温で数十日間貯蔵し熟成させます。
熟成を終えたビールは、瓶や缶、樽などに詰められて出荷されます。
以上の工程の中で、貯蔵熟成から容器詰めされるまでの間の処理方法の違いにより「生ビール」か「生ビール以外」かに分けられます。
酵母は生きていますから、ビールが熟成を終えて一番いい状態に仕上がっても、ビールの中に糖分がある限り発酵を続けてしまいます。
その結果ビールの味に影響を与えてしまいます。
酵母の発酵を止める為の方法として、加熱をすることで酵母を殺し、発酵を止める「低温加熱」と生きたままの酵母をフィルターを通して「濾過」する方法の2つがあります。
生ビールは後者で、熟成後ビールの中に残っている生きた酵母を、珪藻土フィルターで完全に除去した後出荷されたものを言います。
2.ラガービールは製造方法により定義される
中世以降に始まった下面発酵というスタイルで造られたビールの事を言います。
下面発酵とは、発酵が始まると酵母がタンクの底に沈んでいくところからそう呼ばれるようになりました。
下面発酵で使われる酵母はサッカロマイセスカールスベルゲンシスで、5℃前後の低温で発酵し、発酵期間は7〜10日であり、熟成には約1カ月を要します。
低温で発酵するため、雑菌の繁殖を抑える事ができ、製造管理がしやすいため一定の品質を保ったビールを大量生産する事が可能です。
現在流通している大手メーカーのビールも、そのほとんどがこのラガービールのピルスナーという種類のもので、日本だけではなく世界的にも最も普及しています。
低温発酵であるため、果物のかおりが少なく、スッキリとしたのどごしと味わいを楽しむ事ができるビールと言われています。
3.生ビールとラガービールの違いは
そもそもラガーとは、ドイツの寒冷地方でビールが悪くならないように冬の寒い時期にビールを造り低温で貯蔵したところ、今までにないようなスッキリとした味わいのビールが出来上がったという出来事から、ドイツ語のラーゲルン(貯蔵)に由来した言葉として生まれました。
日本では、酒類業組合法により、貯蔵工程で熟成させたビールでなければ、ラガービールと表示してはならないと決められています。
つまり「熟成」したビールがラガービールという事になります。
そしてラガービールにも、熱処理をしていないものと熱処理(パストリゼーション)をしたものがあります。
先に述べた通り、生ビールは加熱処理をしていないものでしたね。
そしてほとんどのビールは、熟成過程を経て出荷されていますから、生ビール=ラガービール(非加熱処理のもの)ということになります。
実際、日本で流通しているビールのほとんどはラガービールです。
つまり、ラガービールの生ビールもあれば、生ビールではない(加熱処理をした)ラガービールもあると言うことです。
余談ですが、ビールの瓶や缶のラベルには、ほとんどの場合「生」や「生ビール」あるいは「ラガー」や「ラガービール」と言ったどちらか片方の表記がされていますが「生ビール」の条件と「ラガービール」の条件のどちらも満たしている場合「ラガービールの生ビール」のような表記をしても差し支えないとされています。
ラベルの表示事項は酒類業組合法及び食品衛生法により規定がありますが、次の特定用語は任意表記となっています。
1.ラガービール
2.生ビールおよびドラフトビール
3.黒ビールおよびブラックビール
4.スタウト
大手メーカーの様々なビールのラベル表記が「ラガービールの生ビール」ではなく「生ビール」だけであったり「ラガービール」だけであったりするのは、この任意表記のためでもあります。
生ビールとラガービールはそもそもの定義の仕方が違うため区別しにくい
生ビールとラガービールについてお話しました。
如何だったでしょうか。
なんだかわかりづらいですが、まとめると、そもそもの定義が異なるということです。
生ビールは、加熱処理の有無によって「生ビール」と「生ビールではない」とに区別され、ラガービールは、加熱処理の有無に関係なく、下面発酵をする酵母を使い貯蔵工程で熟成されたものを指しているということですね。